曲げ師って本当にいるの?

トレーダーの中には「自分は曲げ師だ」と自嘲する人がいる。買えば必ず下がり、売れば必ず上がるというのだ。だが、そのようなことが本当にありえるのだろうか。

負けることは勝つことくらい難しい

ある試験を受けると想定しよう。問題はすべて二者択一である。もし全問不正解だったという人がいたら、「こいつ、アホだな」と思うだろうか。

デタラメに解答したとしても、正答率の期待値は50%である。50%を上回るためには少なくとも問題の1つは正答できなければならない。逆に50%を下回るためには少なくとも問題の1つは正答でき、かつ、わざと誤答しなければならない。

つまり、もし全問不正解だったという人がいたら、全問正解できるのに、わざと誤答したと考えるべきだろう。アホどころか、頭がいいのである。性格はおかしいが。

誤答することは正答することくらい難しい。トレードも同じだ。負けることは勝つことくらい難しいのである。

では、曲げ師はわざと負けているのだろうか。そんなことはあるまい。自ら進んでお金を損したいなどという人がいるなら、そのお金を私に下さい。

単にコストを支払っただけ

だが、曲げ師かどうかは別として、現実に「もうからない」、「損ばかりしている」というトレーダーは少なくないだろう。なぜか。それは支払ったコストを負けだと思い込んでいるからだ。

すでに述べたように、負けることは勝つことくらい難しい。だが、これはコストを考慮しなかった場合である。コストを支払えば負ける確率が勝つ確率より高くなる。

例えば、こんなトレーダーがいるとしよう。ある価格で買う。そして、価格が+10.0、または-10.0で決済するのである。

上昇する確率と下落する確率が同じと仮定すると、コストを考慮しない場合、

期待利益 = 10.0 * 0.5 = 5.0
期待損失 = 10.0 * 0.5 = 5.0
期待勝率 = 5.0 / (5.0 + 5.0) * 100 = 5.0 / 10.0 * 100 = 50.0%

で、期待勝率は50%となる。ここでは単純化して期待勝率は期待利益と期待損失の比から求めることとする。

さて、コストを1.0として考慮した場合、

期待利益 = (10.0 - 1.0) * 0.5 = 9.0 * 0.5 = 4.5
期待損失 = (10.0 + 1.0) * 0.5 = 11.0 * 0.5 = 5.5
期待勝率 = 4.5 / (4.5 + 5.5) * 100 = 4.5 / 10.0 * 100 = 45.0%

となり、期待勝率は45%となる。つまり、負ける確率のほうが高くなる。

これは本当の意味では負けていない。単にコストを支払っただけである。

スキャルはもうかる?

ところで、スキャルはトレード機会が増える、資金効率がよい、リスクが小さい、などと言われる。いいことばかりのようだが、ではスキャルはもうかるのだろうか。

先ほどのトレーダーがたくさんもうけたいということで、スキャルでトレードの回数を増やしたとする。例えば価格が+5.0、または-5.0で決済してトレードの回転を速めるのである。コストをやはり1.0とすると、

期待利益 = (5.0 - 1.0) * 0.5 = 4.0 * 0.5 = 2.0
期待損失 = (5.0 + 1.0) * 0.5 = 6.0 * 0.5 = 3.0
期待勝率 = 2.0 / (2.0 + 3.0) * 100 = 2.0 / 5.0 * 100 = 40.0%

となり、期待勝率は40%となる。勝率はさらに下がってしまった。

トレーダーがさらに欲張って、価格が+2.5、または-2.5で決済してトレードの回転を速めたとする。すると

期待利益 = (2.5 - 1.0) * 0.5 = 1.5 * 0.5 = 0.75
期待損失 = (2.5 + 1.0) * 0.5 = 3.5 * 0.5 = 1.75
期待勝率 = 0.75 / (0.75 + 1.75) * 100 = 0.75 / 2.5 * 100 = 30.0%

となり、期待勝率は30%となる。もうやめておけ、といったところである。

このように、狙う値幅を小さくしてトレードの回転を速めるだけで、勝つためのハードルはどんどん高くなる。しかし、これもコストを支払っただけであり、本当の意味での負けではない。

売買を逆にして勝つには

少し脱線する。もし曲げ師がいるとしたら、売買を逆にすれば勝てるのだろうか。残念ながら、そうとは限らない。

コストを考慮した場合、負けにはコスト分も含まれる。したがって、本当の負けは実際より小さい。売買を逆にした場合、マイナスがそのままプラスになるわけではないのである。

プラスになるのは本当の負けの部分だけだ。そしてプラスになった分からさらにコストを減じる。それでもプラスが残った場合のみ、「売買を逆にすれば勝てる」のである。

つまり、

-(コスト込みの損益 + コスト) - コスト > 0
-(コスト込みの損益) - コスト - コスト > 0
-(コスト込みの損益) - コスト * 2 > 0
-(コスト込みの損益) > コスト * 2
コスト込みの損益 < -(コスト * 2)

である。コスト込みの損益がコストの2倍より大きな負けでないと「売買を逆にすれば勝てる」にはならない。

見えない敵と戦う前に

本題に戻る。負けてばかりいるトレーダーの中には「手法自体は今まで有効だった。だが、ヘッジファンドなどが裏をかいて相場を逆方向に動かし、我々に損切りさせて、それを肥やしにして利益を得ているのだ」と考える人もいるだろう。

確かにそういうこともあるかもしれない。それなら曲げ師がいても不思議ではない。しかし、そういう考えは「ヘッジファンド相手に勝てるはずがない」、「FXなどやっても、もうからない」という結論にたどりがちだ。

資金力のある相手を敵に回して個人投資家が勝てるはずがない、というのは負けてばかりいるトレーダーにとって居心地のいい解釈だろう。自分の研究不足を棚に上げられるからだ。だが、本当は無意味にトレードを重ねてコストを支払っただけなのではないだろうか。

「連中がそう来るなら、自分はさらに裏をかいて」と研究に励む人も中にはいるかもしれない。その意気や良し、である。

だが、見えない敵と戦う前に、先ずは自分がコスト以上に負けているのかどうかを見直すべきだ。敗因を見誤ったならば、そこから正しい教訓を得ることはできない。

(2017/03/14更新)